大阪中之島美術館開館プレイベント「コレクションへのラブレターを大募集!」企画(2020年10月12日~2021年3月31日まで募集)に応募いただいた300通を超えるラブレターの中から、スペシャルゲストと当館館長が選ぶ"私の一篇"が決定しました。いずれも個性豊かで、作品への想いがあふれたラブレターが選出されました。ゲストのコメントとともに、お楽しみください。
有栖川有栖さん(ミステリー作家)の一篇
おべんとうバスさんから ルネ・マグリット《レディ・メイドの花束》 へのラブレター
一目惚れでした。『ボッティチェリのフローラがいる!』衝撃でした。
『山高帽子の男性が、みどりの木々の向こうに目撃、しちゃってるんだ!いいなぁ~。』
何だか、私まで目撃してる気分になって、『静かにしないといけない!じゃないといなくなっちゃうかも』とドキドキとワクワクしたのを思い出します。
ずっと大好きな作品です。
有栖川さんコメント:
このラブレターを読んでいると、こちらの気分もウキウキしてきます。
山高帽子の男性がフローラを「目撃、しちゃったんだ」とは、想像力が豊かですね。そして、惚れていますねぇ。
井上菜摘さん(漫画家)の一篇
しほさんから 倉俣史朗《ミス・ブランチ》 へのラブレター
透明な物が好きだ。透明な物には静寂と清らかさが宿る。
例えば雨滴に映る景色やスノードーム内の小世界。そこは俗世から隔絶された神秘的な空間に見える。
この作品は芸大生の時に建築の授業で知った。赤い薔薇がアクリルの中で自由に踊る姿を見て、椅子としての座り心地を軽やかに切り捨て、潔く魅せることを選ぶ美に対する強い姿勢に憧れた。
薔薇に込められた倉俣さんの美意識が透明な静けさの中でずっと大切に守られている。
井上さんコメント:
触れて(座って)みたい、でも遠くからその美しさを眺めていたい。
椅子とそれを見る私たちは、恋愛禁止のアイドルとファンの関係なのかもしれません…!
桂吉弥さん(上方落語家)の一篇
蘆田雅子さんから ミヒャエル・トーネット《椅子》 へのラブレター
今、私はトーネット仕立ての椅子に座ってメールしています。
明治か大正時代の職人さんが製作した擬(もど)き、明治生まれの祖父が購入したようです。日当たりの良い実家の縁側にありました。
長い時間、日だまりの中、沢山の家族の指が触れて、曲げ木の背もたれや座の網代は塗料だけでは出せない色……
トーネットの椅子は引き算の産物、無駄のない曲げ木の丸み、コピーだけど、私の宝物。
ほんまもんに会える日を楽しみに。
吉弥さんコメント:
多分おじいちゃんのところに遊びに行って、その膝に乗せてもらったかもしれません。
椅子だから、いろんな人が座ったり触ったりして自分の思い入れがより深いんじゃないでしょうか。
本当に素敵なラブレターでした。
田尻夏樹さん(モデル・女優)の一篇
郵便局員の妻さんから 佐伯祐三《郵便配達夫》 へのラブレター
今年、夫が定年退職しました。40年間郵便配達をして、私たち4人と私の母を食べさせてくれました。
夫に面と向かって「ご苦労様」ってなんか照れ臭くて、この作品のお髭の郵便夫にお礼を申し上げてます。
「地震の日、3歳と6ヶ月の子供と私を残して出勤していってしまった時は、本当に離婚を考えました。
週休も非番も返上してボランティアとして、被災の大きい郵便局へ自転車で駆けつける姿がカッコ良かったです。」
田尻さんコメント:
情景が目に浮かびました。
週休も非番も返上してボランティアへ出かける旦那様の後ろ姿を見つめながら子供たちと3人待つ家はなんだか寂しく思い悲しい気持ちになりながらも心のどこかではそんな姿をカッコいいな。と思い家庭を支える奥様。
とても素敵な夫婦だなと思いました。
見取り図 リリーさん(お笑い芸人)の一篇
ちみんこさんから グスタフ・クリムト《第1回ウィーン分離派展ポスター(検閲後)》 へのラブレター
わたしはクリムトが好きだ。タイムマシンがあるなら会いに行って「わたしを描いて」と懇願したい。そんな大好きな彼のこの作品。
目の前に立つその一瞬だけ、わたしは強くなれる。さあ、ミノタウロスを倒せ。パラス・アテナがついている。一歩踏み出せば・・私はいつものわたしに戻るけど。仕事が半日だから、と会いに行ける。わたしの生活圏にあなたがいるしあわせ。
今日も、クリムトが、好きだ。
リリーさんコメント:
文体から恋心が伝わってきます。
これぞ「ラブレター」です。クリムトに届きますように。
クリムトが羨ましい。
菅谷富夫(大阪中之島美術館長)の一篇
苗田順司さんから 鍋井克之《兜島の熊野灘》 へのラブレター
2012年に大阪市立近代美術館(仮称)心斎橋展示室で開催されたザ・大阪ベストアート展の会場でのことである。
刻々と変化してゆく陽光と、それがてらしている海面、なにかしら動物の甲羅のように見えるごつごつとした岩山。まさに鍋井の現場での写生重視がみてとれる。
おりしも、この作品《兜島の熊野灘》の鑑賞に耽っている時に、主催読売新聞の記者に取材を受けた。
その内容が、当日の夕刊紙面を飾り、私の一生の貴重な一ページとなった。
館長コメント:
以前から大阪中之島美術館のファンでいてくださって嬉しく思います。
館の歴史と苗田さんの想い出がクロスした、奇跡の一日でしたね。
その記憶を大切にしていただいていることが伝わってきました。