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没後50年 髙島野十郎展

2026-03-25 – 2026-06-21

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概要

髙島野十郎(1890 – 1975)は、「蝋燭」や「月」などを独特の写実的筆致で描く福岡県久留米市出身の洋画家です。没後50年の節目に開催する本展は、代表作はもちろんのこと、初公開も含めた約160点超を展示する過去最大規模の回顧展で、大阪では初めて開催されます。「孤高の画家」と呼ばれてきた野十郎の芸術が形成されたルーツを遡り、青年期や滞欧期の作品など、従来の展覧会ではそれほど大きく取り上げられることがなかった部分にも焦点を当て、その芸術の真髄に迫ります。

展覧会情報

会期2026年3月25日(水)– 6月21日(日)
休館日: 月曜日
*4月27日(月)、5月4日(月・祝)は開館
開場時間10:00 – 17:00(入場は16:30まで)
会場大阪中之島美術館 4階展示室
主催大阪中之島美術館、毎日新聞社
協賛大和ハウス工業
協力ブルーミング中西
お問い合わせ大阪市総合コールセンター(なにわコール)
06-4301-7285
受付時間 8:00 – 21:00(年中無休)
先行チラシPDF

みどころ

1. 写実の極致を求めた画家の全貌に迫る回顧展、大阪初にして160点超が集結

2. 目を凝らすほどに浮かび上がる謎、作品の深淵な魅力にふれる

3. 東大首席卒業から独学の画家へ、信念の人物像に迫る

作家紹介

髙島野十郎 《絡子をかけたる自画像》
大正9(1920)年 福岡県立美術館

髙島野十郎(たかしま・やじゅうろう) 略歴 1890(明治23)年、福岡県御井郡合川村(現・久留米市)の裕福な酒造家であった髙嶋家の五男に生まれる。本名は彌壽(やじゅ)。福岡県立中学明善校(現・明善高等学校)に学んだ頃から絵に目覚め、長兄の宇朗(詩人)の友人であった青木繁を知る。そのため、旧制第八高等学校(現・名古屋大学)を経て東京帝国大学農学部水産学科を首席で卒業するものの、画家の道を選んだ。以後も独身を貫き、独学で絵を学んで美術団体にも属さないことで、流行や時代の趨勢(すうせい)に流されることがなかった彼の画業は、自らの理想とする絵画を生み出す行為そのものであった。
1980(昭和55)年、福岡県文化会館(現・福岡県立美術館)にて開催された展覧会「近代洋画と福岡県」に《すいれんの池》が出品され、無名の画家であった野十郎の評価が始まった。その後、1986(昭和61)年に初の回顧展となる「写実にかけた孤独の画境 髙島野十郎展」が福岡県立美術館で開催されて以降、連続的に展覧会が開催され、その作品や画業の全体像が明らかになってきた。代表作《蝋燭》や《月》をはじめとする作品は、卓越した技量と、緊張感さえもみなぎる独特の写実的筆致を魅力とする。

構成

プロローグ 野十郎とは誰か

髙島野十郎の画業が世に初めて知られたのは、彼の死後約10年を経た昭和61(1986)年。以来、いくつかの展覧会や書籍で紹介されてきたものの、多くの人の目に触れてきたわけではありません。まず始めに、盛んに描いた《蝋燭》や《月》のほか、自画像や静物画、風景画など、代表作品とともに彼の画業の全体像をご紹介しましょう。

  • 髙島野十郎《蝋燭》
    大正時代(1912 – 26) 福岡県立美術館

  • 髙島野十郎《月》
    昭和37(1962)年 福岡県立美術館

  • 髙島野十郎《からすうり》
    昭和10(1935)年 福岡県立美術館

第1章 時代とともに

野十郎は画業の初期に小さな絵画グループ「黒牛会(こくぎゅうかい)」で3年間活動するも美術団体に属することなく、個展で作品を発表していました。
しかし同時代の美術の流れから断絶していたわけではありません。明治末頃に多くの若い日本作家たちの心を惹きつけたフィンセント・ファン・ゴッホ(1853 – 90)に彼も大きな影響を受けています。そして草土社を結成した岸田劉生(1891 – 1929)たちが大正期に展開した細密な写実描写は、その静謐で深い精神性をたたえた表現によって野十郎に強い感化をもたらし、彼の画業の方向性を決定づけています。また青木繁(1882 – 1911)や坂本繁二郎(1882 – 1969)、古賀春江(1895 – 1933)など同郷の画家たちとの出会いや交流も彼の画業形成に少なからず寄与しています。
野十郎が写実の画風を確立させていく道程を、同時代の美術の中で捉え、「孤高の画家」と呼ばれることのある野十郎も、日本の近代美術史を彩る画家のひとりであることを紹介します。

  • 岸田劉生《静物(湯呑と茶碗と林檎三つ)》
    大正6(1917)年 大阪中之島美術館

  • 髙島野十郎《田園太陽》
    昭和31(1956)年 個人蔵

第2章 人とともに

野十郎と40年近く交流のあった日本芸術院会員の洋画家・大内田茂士(おおうちだしげし、1913 – 94)は野十郎についてこう書いています。「人間ぎらいは相変わらずで、結婚もせずこのアトリエに一人住み、晴れれば畑で働き、降れば絵を描くという毎日であった」。
しかし野十郎は人を遠ざけていたわけではありません。彼は魅力ある人物であったようで、彼の絵を愛し、素朴で気骨ある生き方に共感する人たちが数多くいました。この人たちが、画壇では無名の彼の絵を大切に守り、そして一人暮らしゆえに不明の多い生活ぶりや考え方などを伝えてくれています。野十郎は「孤高の画家」であったかもしれませんが、「孤独の人」ではなかったことを示しています。
本章では、野十郎に魅せられた人々が守ってきた作品とともに、彼らの眼が捉えた野十郎の生身の姿を紹介します。

  • 髙島野十郎《岸上鎌吉先生像》
    大正10年代頃 東京大学大学院農学生命科学研究科水圏生物科学専攻

  • 髙島野十郎《筑後川遠望》
    昭和24(1949)年頃 福岡県立美術館

第3章 風とともに

本章ではヨーロッパ留学中や日本全国を旅した際に描いた四季の風景画作品に注目します。旅を愛した野十郎は、独り身の気楽さもあってか、ひとり気ままに旅に出ては、気に入った場所に長期間滞在していました。旅先で見つけた美しい景色をじっと見つめ、歩き回っては立ち止まり、目に見える風景だけでなく、匂いも光も空気までも味わい尽くし、その経験すべてを一枚の絵に凝縮していたようです。そのようにして作り出される野十郎の風景画は、眼前の風景を即興的に写し取ったものではありません。選ぶ対象や構図、いかなる細部もおろそかにしない精緻な描写には、生涯揺らぐことがなかった一貫性を読み取ることもできます。

    • 髙島野十郎《イタリヤの海 キオッジア漁村》
      昭和5 – 8(1930 – 33)年 個人蔵

    • 髙島野十郎《れんげ草》
      昭和32(1957)年 個人蔵

第4章 仏の心とともに

野十郎の長兄で詩人の宇朗(1878生)は禅宗に帰依しており、兄の影響からか、野十郎は青年時代から仏教に深く傾倒していました。空海の真言密教に接近したり、四国や秩父の札所巡りにたびたび出かけたりするなど、仏教へのたゆまぬ関心を持ち続けていました。なにより、対象の写実的な描写を慈悲の実践と捉えていた野十郎にとっては、絵を描くことそのものが仏の教えに接近することでもありました。
本章では、野十郎が生涯よりどころとしていた広義での仏教をはじめ、広く宗教を予感させる作品を紹介します。寺社や地蔵などの直接的な作品だけでなく、一見すると普通の静物画や風景画にも「晴と雨」、「生と死」など相対立するものを表す仏教的な考え方が込められていることを示します。

  • 髙島野十郎《法隆寺塔》
    昭和33(1958)年 個人蔵

  • 髙島野十郎《割れた皿》
    昭和23(1948)年以降 福岡県立美術館

  • 髙島野十郎《海辺の秋花》
    昭和28(1953)年頃 個人蔵

エピローグ 野十郎とともに

ここまで、野十郎の生きた時代や人となり、芸術観、そしてそこから生み出された作品を様々な切り口から点描してきました。そこで見出されたのは、野十郎が絵描きとして、生涯いかに自らを見失わずに真摯に、そして誠実に絵画制作と対峙したかということでしょう。しかしそれは、決して特別なものではなく、ひとりの人間としての生の営みそのものです。自らの理想と信念にひたすら忠実であろうとしたストイックな彼の生き方は、出口の見えない混迷の時代を生きる私たちにとっても非常に魅力的に映るのではないでしょうか。
本章では、全体を振り返りながら、ふたたび野十郎の代表作品を紹介します。目の前のひとつひとつの作品を細部にいたるまで味わい尽くし、野十郎がそこに込めようとしたものに想像をめぐらせることで、我々もまた野十郎の眼差しや、絵描きとしての在り方を追体験することができるでしょう。

  • 髙島野十郎《さくらんぼ》
    昭和31(1956)年頃 福岡県立美術館

  • 髙島野十郎《睡蓮》
    昭和50(1975)年 福岡県立美術館

図録

出品作品図版はもちろん、資料図版や資料の書き起こしテキストを掲載。 さらに、論文やコラムを多数収録した没後50年の節目にふさわしい充実の一冊です。 本展広報大使 又吉直樹さんが本展のために書き下ろした短編小説も収録しています。

サイズ
A4変形判

頁数
256ページ

言語
日本語

価格
税込3000円(本体2727円)

販売場所
開幕後、大阪中之島美術館4階 本展グッズショップで販売いたします。
オンラインストア「まいにち書房」でもご購入いただけます。