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2019.08.09

開館準備ニュース Vol.03

《天平美人》世紀の大修復!

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[特集]《天平美人》世紀の大修復!

所蔵作品をより良い状態でご覧いただき、また永く後世に残すため、修復や額装などの処置を行うことは、美術館の基本的業務の一つです。大阪中之島美術館準備室でも、来たるべき開館に向けて所蔵作品の修復を順次行っています。

本号では、昨年度から1年3か月をかけて行った関根正二作《天平美人》の解体修復について、ご報告をかねてご紹介します

関根正二は二十歳の若さで夭逝した画家として知られます。《天平美人》は、関根唯一の屏風形式の作品で、短い画業の中でも特に重要な作品の一つに位置付けられます。

大阪中之島美術館は、本作品を1991年(平成3)に購入。その時すでに、屏風でありながら額に収められていました。その後30年近く、展示の際は額のまま壁に飾り、展示のない時は収蔵庫で大切に保管してきました〔写真1〕。しかしながら、外的要因を受けず、温湿度環境も完ぺきに整えられた状況の中で、少しずつ、白い布に茶色いしみが浮き出してきたのです。

今回の修復では、その発生要因を突き止めるとともに、鑑賞の妨げとなってしまったしみを除去。また、関根自身が制作した当初の屏風装に戻すことにしました。

修復は、専門の修復工房において行われました。

まずは原因の調査です。額から作品を取り出し、本紙を取り外すと、茶色く変色した下地が現れました〔写真2〕。これは紙が酸化している証拠です。そして、接着に使われていた糊を調査。本作品と同じ素材・接着剤によるサンプルを作成し、高温高湿状態に設置して急速に劣化させ、しみの発生状況を再現しました。

この劣化実験の結果、精製の不十分なでんぷん糊と、下地から発せられる酸性ガスが反応したのではないか、と推察されました。特にしみが濃くなっている部分は、かつて漂白剤のような薬剤を用いた痕跡も認められ、さまざまな原因物質が額の内側に密封されたことにより、茶色のしみを発生させたのではないか、と考えられます。

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[写真1] 《天平美人》展示風景(2011年)
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[写真2] 作品の解体がはじまりました

次にこのサンプルを用いて、どの薬剤によってしみを軽減させられるか、実験が行われました。

いくつものテストを重ねて、しみ除去に有効かつ、絵具に影響を与えない薬剤を複数決定〔写真3〕。これらを用いて、しみの原因の一つと考えられる旧い糊と、しみの除去作業が行われました〔写真4〕。

その結果、しみの濃さは随分と軽減されましたが、繊維の奥深く残存する色素は、まだ鑑賞に影響を及ぼすと思われました。そこで、技術者と美術館で慎重に検討し、文化財修復において使用実績のある過酸化水素水を用いて、しみが濃い部分の漂白を行いました。

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[写真3] しみを除去する実験
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[写真4] しみの除去作業
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[写真3] しみを除去する実験
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[写真4] しみの除去作業

最後に、屏風に仕立てる作業です。

大阪中之島美術館への収蔵以前に行われた仕立て直しによって、左右の継ぎ目で布がわずかに巻き込まれたことにより、図柄の楽器の棹にズレが生じていました。

技術的な面と表現の意図を検討し、今回は左右の面で棹が真っすぐになるように貼り込み直し、作者による線描がすべて見えるようにしました。〔写真5・6〕

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[写真5] 修復前の継ぎ目
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[写真6] 修復後の継ぎ目 楽器の棹がつながりました

こうして、1年以上に及んだ大解体修復が無事に終わりました。完成した姿がこちら。色彩の発色がより鮮やかになり、線描の美しさと繊細さが引き立つようになりました。〔写真7〕

[写真7] 修復を終えた《天平美人》

本作品の謎のしみは、かつての所蔵者が、作者本来の意図から離れて額装を施した結果、作品に思わぬ影響を及ぼしてしまった、非常にまれなケースといえるでしょう。

修復には「正解」はありません。作品に対してどんな処置を行い、どこまで手を施すか、ということは、作品の見え方とその後の保存に大きな影響を及ぼすため、美術館としての姿勢が大きく問われる点です。

今回の修復においては、保存修復の専門機関である東京文化財研究所に指導・協力いただきました。保存の専門家や経験豊富な技術者と協議を重ね、現時点で考えられる最善の修復が実施できたと考えています。

約30年振りに、屏風の姿に戻った《天平美人》。新しい美術館でご覧いただける日を、ぜひ楽しみにお待ちください。

写真提供:株式会社修護

コレクションからこの一点

ウンベルト・ボッチョーニ《街路の力》― 海を渡るコレクション

《街路の力》は、20世紀初頭の前衛美術運動「未来主義」を代表するウンベルト・ボッチョーニ(1882-1916)の絵画です。街の灯りがきらめき、路面電車が迫る都市の一場面が、切り子ガラスや万華鏡のような斬新な表現で描かれており、機械文明の進歩をたたえた未来主義を体現しています。

1909年にイタリアで誕生した未来主義が国際的に認められたきっかけは、1912年にパリ、ロンドン、ベルリンなどを巡回した「イタリア未来主義画家展」でした。《街路の力》はこの展覧会に実際に出品され、それゆえ海外での注目も高い作品です。

大阪中之島美術館コレクションは、過去幾度となく海外の主要な美術館に貸し出されており、このこと自体がコレクションの質の高さの証明でもあります。《街路の力》は海外貸出歴において五指に入り、これまでに欧州5都市で展示されました。

2008-09年にパリ、ローマ、ロンドンで未来主義誕生100年を記念する大規模な巡回展が開かれた際にも出品され、上述の1912年の展覧会の再現コーナーで重要な役割を果たしました。ローマとロンドンでは図録の表紙を飾るなど、展覧会のメインイメージとして扱われました。

☆下記にて《街路の力》の作品解説をご覧になれます。
「コレクションギャラリー:ウンベルト・ボッチョーニ《街路の力》」

ウンベルト・ボッチョーニ 《街路の力》1911年

開館準備☆ワンショット

「にょきにょき」

美術館の建設現場を西から見た様子です。
何台ものクレーンがにょきにょき。今日も工事が進んでいます。

イベント通信

特集展示 「漣」を生んだ風景 ― 近代水都大阪を描く ―

建設中の大阪中之島美術館が所蔵する作品の一部は、現在、美術館や博物館に貸し出されています。

今回ご紹介する大阪歴史博物館での展示もそのうちのひとつ。本展示は、今年4月の地方独立行政法人大阪市博物館機構の誕生を機とした、大阪歴史博物館と大阪中之島美術館準備室の共催によるものです。

写真は展示作業の一コマ。作品の展示作業は、がらんとした何も置かれていない空間から始まります。数々の貴重な作品を扱うため、専門業者が慎重かつ丁寧に作品を運びました。

作品が所定の位置に掛けられると、作品と作品の間隔を確認し、微妙な調整をする学芸員の姿は真剣そのもの。作品に影響を与えないように空調や照明も調整されました。

このような作業を経て、錦絵、油彩画なども織り交ぜながら、それぞれの時代に「水の都」大阪がどのように描かれてきたのかが紹介されました。今回の展示の目玉は福田平八郎作の《漣》。2016年(平成28)に重要文化財に指定され、大阪では今回が指定後初の展示です。

展示作業の様子

イベント情報Information

展覧会期 2019年7月10日(水)~ 8月19日(月)
展覧会場 大阪歴史博物館 8階 特集展示室
主催 大阪歴史博物館、大阪中之島美術館準備室

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